虐待防止マニュアル

 

1章 虐待の定義、種類等

 

1 虐待とは

明確な定義は固まっていませんが、障がい者に対する不適切な言動や障がい者自身の心を傷つけるものから傷害罪等の犯罪となるものまで、幅広いものと考えられており、このマニュアルでは、「障がい者が他者からの不適切な扱いにより、人権を侵害されること」とします。

ほんのささいな、虐待のつもりでなく行っている行為が、実は虐待であり、いつのまにか人権を侵害していることもあります。

常に、利用者の立場に立って、利用者が心理的な苦痛等を感じるような言動をしないよう留意することが重要です。

 

2 虐待の種類

虐待に関する国からの通知(17.10.26)では、「児童虐待防止法」に掲げる4種類の行為に準じるとともに、財産の不当な処分も該当することとされています。

@ 身体的虐待・・障がい者の身体に外傷が生じ、又は生じる恐れのある暴行を加えること。

行為の例示:殴る、蹴る、たばこを押しつける

A 性的虐待・・・障がい者にわいせつな行為をすること又は障がい者をしてわいせつな行為をさせること。

行為の例示:性交、性的暴力、性的行為の強要

B ネグレクト・・障がい者の心身の正常な発達を妨げるような著しい減食又は長時間の放置その他の施設職員としての義務を著しく怠ること。

行為の例示:栄養不良のまま放置する、病気の看護を怠る

C 心理的虐待・・障がい者に対する著しい暴言又は著しい拒絶対応など障がい者に著しい心理的外傷を与える言動を行うこと。

行為の例示:成人の障がい者を子ども扱いするなど自尊心を傷つける

D 経済的虐待・・障がい者の所持する年金等を流用するなど財産の不当な処分を行うこと。

行為の例示:同意を得ない年金の流用など財産の不当な処分

 

 

【 身体的虐待の留意点 】

体罰については、その背景として「体罰を行うのはあくまで相手のためになるから行う」というようなパターナジズム(父権的保護主義)があると言われています。

この結果、職員が忍耐をもつて利用者に寄り添わず(短絡的、安易な手段(体罰)に走り、重篤なケガを負わせる場合もあります。

 

【 掲示物の例 】

障がい者()を支援する職員の方ヘ

以下のような行為は、障がい者()への虐待です。不適切な支援から、傷害などに当たる犯罪行為まで様々ですが、いずれも障がい者()の人権の重大な侵害であり、絶対に許されるものではありません。

○ 身体的虐待

・殴る、蹴る、たばこを押しつける。

・熱湯を飲ませる、食べられないものを食べさせる、食事を与えない。

・戸外に閉め出す、部屋に閉じこめる、縄などで縛る。

 性的虐待

・性交、性的暴力、性的行為の強要。 、

・性器や性交、性的雑誌やビデオをみるよう強いる。

・裸の写真やビデオを撮る。

  ネグレクト

・自己決定といって、放置する。

・話しかけられても無視する。拒否的態度を示す。

・失禁をしていても衣服を取り替えない。

・職員の不注意によりけがをさせる。

  心理的虐待

・「そんなことをすると外出させない」など言葉による脅迫。

・「何度言つたらわかるの」など心を傷つけることを繰り返す。

・成人の障がい者を子ども扱いするなど自尊心を傷つける。

・他の障がい者()と差別的な取り扱いをする。

  その他

・障がい者()の同意を得ない年金等の流用など財産の不当な処分。

・職員のやるべき仕事を指導の一環として行わせる。

・躾けや指導と称して行われる上記の行為も虐待です。

自分がされたら嫌なことを障がい者()にしていませんか。

常に相手の立場で、適切な支援を心がけましょう。

 

【 起こりやすい虐待の例 】

職員が意識していなくても、次のような行為も虐待となります。

虐待かどうかは、あくまでも利用者の視点、利用者自身が苦痛を感じているかどうかの観点から判断されるべきことです。

・どうしても必要な場合を除き、利用者の嫌がることを強要する。

・処遇に手のかかる利用者に不必要な量の薬を飲ませて眠らせる。

・職員の指示に従わない利用者の食事を取り上げる。

・利用者を管理するために、日中、食堂や居間に閉じこめる。

・指示に従わない利用者を、長時間、正座・直立させる。

・利用者の人格を傷つけるような写真を展示する。

 

 

3 利用者の保護者への説明

虐待の定義・種類、被害を受けた際の対応等について、利用者個々の理解力や障がい特性などに応じて、利用者の立場で分かりやすく説明し、継続的に理解が深まるように努めることが重要です。

@ 一人で我慢しているだけでは問題が解決しないので、虐待に関わる訴え等の行動をためらわないこと。

A 虐待を受けたと思う場合には、該当職員に対して、毅然とした態度をとり、明確な意思表示をすることが重要であること。

B 身近に相談できる職員がいない場合など、困ったときには、県や社会・福祉協議会など、関係機関に相談できること。

 

4 施設職員が留意すべき事項

(1)職員一人ひとりの意識の重要性

@ 障がいの程度等に関わらず、常に利用者の人格や権利を尊重すること。

A 職員は利用者にとつて支援者であることを強く自党し、利用者の立場に立った言動を心がけること。

B 虐待に関する受け止め方には、利用者による個人差や性差などがあることを、絶えず認識すること。

(2)基本的な心構え

@ 利用者との人間関係ができていると、独りよがりで思い込まないこと。

A 利用者が職員の言動に対して虐待であるとの意思表示をした場合は、その言動を繰り返さないこと。

B 利用者本人は心理的苦痛を感じていても、重度の重複障がい者など、それを訴えたり、拒否することができない場合もあることを認識すること。

C 職員同士が話しやすい雰囲気づくりに努め、虐待とみられる言動について、職員同士で注意を促すこと。

D 職場内の虐待に係る問題や発言等を個人的な問題として処理しないで、組織として良好な施設環境を確保するための契機とする意識を持つこと。

E 被害を受けている利用者について見聞きした場合は、懇切丁寧に相談に応ずること。

F 心理的苦痛を感じる言動が職員にある場合には、第三者として、良好な施設環境づくりのために報告するなどの措置を講ずること。

 

2章 虐待の未然防止

 

1 法律上の位置付け

障害者自立支援法に基づき、「利用者の人権擁護、虐待の防止等のため、責任者を設置する等必要な体制の整備を行うこと」等が省令において規定されています。

(1) 「虐待防止責任者」の設置

管理者等を責任者として設置することが義務付けられており、管理者等が責任を持つて虐待の未然防止に取り組むことが必要です。

(2) 必要な体制の整備

運営規程において、利用者の人権擁護・虐待の防止等に対応するため、責任者の設置、相談窓日の設置、職員に対する研修その他必要な措置を講ずること」が求められています。

特に、職員の資質向上を図る上では、職場内研修や外部の研修などに計画的に参加することが効果的であり、積極的な取組が求められています。

 

2 事業者としての責務

理事長、管理者等は、自ら利用者の人権擁護の意識を高め、地域に開かれた事業所として、利用者が安心してサービスを利用できるよう、そのための理念や倫理細領などを明文化し、職員一人ひとりに周知・徹底させることが必要です。

 

3 虐待防止委員会の設置等

(1)虐待防止の取組の明示

利用者の人権侵害を許さないという誓いを、広く社会に対しても目に見える形で行うことで一定の効果が期待できることから、啓発文書を掲示します。

(2)虐待防止委員会の設置

利用者の人権を擁護し、虐待防止責任者の職務が円滑に執行できるよう、 保護者や第二者委員など外部の目を含めた、施設内での虐待防止のための組織を設置することにより、虐待防止の取組の実効性を確保します。

 

そのためには、法人の理念等の「基本方針」の実現に向けて、「事業者の責務」を全職員が理解するとともに、「虐待防止委員会」において、 ヒヤリ・ハット事例の分析や職員のストレスマネジメントなど組織的な対応が必要です。

【 虐待防止の組織図】

ア)    理事長   委員会の開催、委員会の総括管理

イ)                管理者   研修計画の策定、職員のストレスマネジメント、苦情解決・事故対応の総括、他の施設との連携 等

ウ) 生活支援員、職業指導員、看護職員、介護職員、           相談支援専門員

各職員のチエックリスト、ヒヤリ・ハット事例の報告、分析等

 

4 相談、苦情を活かす仕組みづくり

(1)利用者や保護者の声を聞く姿勢

管理者等の職員は、利用者との日常的なコミュニケーションを大切にするとともに、相談・苦情はサービスの質を向上させる上で、重要な情報であるとの認識の下に、日々のサービスを提供することが重要です。

@ 利用者等との日常的なコミュニケーションの確保

利用者等との定期的な意見交換を実施することにより、利用者の求めるサービスの内容等を把握すること。

A 虐待に関する相談・苦情等への対応

・苦情解決責任者、第三者委員の活用を図るとともに、苦情解決体制の積極的な周知を図ること。

・受け付けた苦情やその改善状況等を第三者委員に報告するとともに、施設の広報紙等で公開するよう努めること。

(2)公的機関等での相談支援

県や県社会福祉協議会等においては、相談体制の整備や指導監査によるチェックなど、施設利用者の権利擁護の取組を進めており、利用者や家族に、関係機関の利用方法等を積極的に周知することが重要です。

・県、市町、虐待防止アドバイザーによる相談対応

・第三者機関である県社会福祉協議会運営適正化委員会での相談

・人権擁護機関としての法務局、人権擁護委員への相談等

 

5 業務の点検(チェックリストの活用)

利用者を支援する際に、いつのまにか人権を侵害していることがないか、冷静に振り返ってみることも必要です。

人権を擁護できているかを客観的に自己評価するため、職員が自らの行動を点検するチェックリストを活用することが有効です。

@活用の目的

人権擁護のための重要なポイントを掲げ、この項目に沿って個々の作業等を振り返ることにより、処遇の状況等を的確に把握すること。

Aチェックリストの作成

倫理綱領等をもとに、各施設で話し合って、施設に合ったチェックリストを作成すること。

B チェックリストの活用

自らの行動等をチェックすることにより、利用者に対する処遇の適否、自らのストレスの状況等について振り返ること(ストレスマネジメント)

C 組織としての活用

「虐待防止委員会」等において、チェックリストの結果を分析することにより、職員の意識の違いや職員のストレス等の課題を把握すること。

 

3章 虐待の早期発見日早期対応

 

1 早期発見の取組み

利用者の権利を侵害するささいな行為から虐待へとエスカレートすることを認識し、平素から、管理者等は、利用者・保護者、職員とコミュニケーションの確保を図り、虐待の早期発見に努めることが重要です。

・管理者等の職員は、日常的に利用者・保護者等の生の声をしっかり時間をかけて聞き取るよう努めること。・

・特に、苦情解決受付担当者は、自ら利用者の元へ積極的面会するとともに、保護者会等にも出席するなど、気軽に苦情や要望を言える関係づくりに努めること。

・管理者等は、苦情解決第三者委員等とともに、コミュニケーションの取りやすい環境づくりに積極的に取り組み、早期発見に努めること。

2 対応時の基本姿勢

組織として一体的に対応することができるよう、管理者等を責任者として定めるとともにt虐待への初動対応の方法を予め定め、虐待が発生した場合は、利用者の安全・安心の確保を最優先に、初動体制を確保することが重要です。

@ 組織としての対応

・平素から、人権に関する定期的な研修の実施など職員の意識の向上に努め、速やかな報告を職員の義務として認識させること。

・虐待に関する相談,外部からの通報等があつた場合は、職員は直ちに管理者等に報告するとともに、法人・事業所として、速やかに、県や市町に連絡すること。

・虐待が発生した場合は、管理者等は、利用者等の安全・安心の確保を第一義として、迅速に対応することを基本とすること。

A 利用者や家族への配慮

・管理者等は、被害者等のプライバシーの保護や名誉その他の人権を尊重することを最優先に対応すること。

・法人・事業所として、家族等に対して、速やかに誠意ある対応、説明を行うこと。

B 対外的な説明

報道機関からの取材等には、被害者等のプライバシーを保護するとともに、説明責任を果たす観点から、理事長に対応を一本化して、適切に対応すること。